nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

再読/味読「ソフトウェア企業の競争戦略」マイケルA.クスマ

「みどく」→味読 とちゃんと変換してくれました。

通読はしないけれど、きれいに整理された目次と全体構成から、重要なポイントがすぐに飛び込んでくれるのを、リアルの体験、目下の課題と照らしてじっくり考えながら読む。これが、今回の「味読」です。以下、特に、肝に銘じるべきと再確認した最重要ポイントのおさらいになります。

1997年〜 の著者のMITのコースで、多くのソフトウェア新技術とビジネスプランを評価した実体験に基づいて、次の8つの成功必要条件を記しています。(当然ながら十分条件ではありません) これらに先立って、アプリとインフラ(あるいは新種のエンジンもか)が両極にあってスパイラル・アップしていくトレンドにのるべきことが語られています。そのトレンドは自ら作り出すこともできます。インフラやエンジンから入るなら、それらだけでなくアプリも必ず自ら仕掛けていく必要があるし、発展性のあるアプリは新規の魅力的なインフラやエンジンをうまく活用していなければならない、ということ。キラーアプリは、インフラの変革を迫ったり、エンジンの高性能化を要求していくほどです。このあたりは骨身に沁みているので、一見、どっちつかずにやっているようで、うまくバランスをとって事業展開しつつある、と自覚しているのですが、、客観的に第三者に認めさせるには至っていない、ととらえております。

ポイント(1)強力な経営陣
 アイディアよりも人をさらに重視するには理由がある。斬新なアイディアを未熟なチームが育てるよりは、そこそこのアイディアを起業のプロ集団に委ねた方が成功確率が高いから。

・・・しっかりしたビジネス・アイディアをもつ強力な創業者による少人数のグループは、経験豊富で才能あるマネージャをチームに加え、そのマネージャに業務立ち上げと、一定の顧客を獲得するのに必要な基礎的機能を担当させるべき。・・(フェーズによって必要スキル、人材が異なる話)・
・・・複雑な製品コンセプトをもつスタートアップ起業には強い技術陣が必要だが、同時にその技術陣と釣り合いがとれるほど有能なマーケティングと販売担当の経営幹部も必要。・・・両者のそれぞれの「こだわり」を牽制して資金を節約するCFO役はCEO以上に重要。創業者は経験豊富なCEOに早く譲るべき(→これはたとえ望んでも日本では引き受け手がいなくて困難だろうなぁ)。
・・・CEOの経営スキルとは、過度におびえることなく他人の言葉に耳を傾け、できるだけ客観的に異なる観点を受け入れ、経営資源(人、時間、金)の割当を決定し、筆者の言う「パニック管理」をさける能力のこと。
・・・経験の浅い経営者は毎日起こる最新の危機に対応するため全体像を見失いがち。顧客が新米CEOにこうした影響を与えてしまうことは多い。・・・重要な顧客からの最新の要求が新製品のロードマップや新しい戦略になってしまいがち、ということである。

 6〜70点くらいはとれていると思うけれど、絶対に忘れてはならないポイント。前半は、「こんな(優秀幹部をそろえるなどという)贅沢いってられません」ではすまされず、一人何役も、本当に頭をスイッチしながら演じるべし、と受け取る。


ポイント(2)魅力的な市場

・・・潜在市場が、十分に大きく、十分に成長が速く、利益をもたらす可能性が高くなければならない。水平型、垂直型の両市場があり得る。
・・・もっと重要なのは、市場がM.ポーター的な意味で構造的に魅力があること。・・・競合が簡単には入れない比較的高い参入障壁があり、激烈な価格競争に引き込みそうなライバルがそれほど存在せず、価格を下げたりコストをあげたりの交渉をしなければならないバイヤーまたはサプライヤーの力が限定的で、基本的な製品またはサービスに対する優れた代替物が存在しない、ということ。加えて、補完製品またはインフラ的な要素が成功のために重要ならば、そうした製品やサービスがなるべく速く利用できるようになっていなければならない。

ポーターの5点に加えた6点目が、マッシュアップの世界では極めて重要です。そのようなパートナー候補との協業や交渉を本日も行いました。こちらに割く時間が7割、顧客候補との時間が3割かもしれません。


ポイント(3)顧客を引きつける新しい製品、サービス、ハイブリッドソリューション

・・・まずは、特定タイプの顧客を引きつける何か(製品コンセプト)を用意すべき。
・・・起業家は定量的かつ定性的にも納得出来るデータを駆使した計画をつくり、自分たちの製品やサービスが顧客に対して、競争相手(または代替物)がすでにオファーしているか、将来オファーしそうなものよりも優れた便益をいかに提供できるかを示さねばならない。・・・その魅力度はつまるところ顧客が喜んで支払おうとする金額に反映。顧客にとっての価値は、他企業が何を提供するか、自社と類似の製品やサービスにいくらの値段をつけるか、さらに無料で利用できるものはあるのか、現在または近い将来に出現しそうな代替製品やサービスは何かによって左右される
・・・会社がある客観的な評価基準(ベンチマーク)をおくこと・・・それにより競合製品と比較してどちらがよりよく、より速く、より安いかをみるための実験を行うよう起業家に薦めている。競合製品より格段によい、というのは主観であるが、50%安い、50%速いという特徴は、潜在市場の大きな製品/サービスにとっては良いスタートである。・・・技術コアの性能だけ評価しても駄目で、実際の応用局面でその性能が出るかを数値評価しなければ意味がない。

 まったくその通り。もしも、エンジンの性能(精度、速度)だけを競えば良いのなら、学会をリードする大学の研究室が悉くビジネスをリードしているはず。現実はまったく違う。



ポイント(4)顧客が関心をもっているという強力な証拠
 早期の販売実績がものをいう、という話。

・・・(荒削りでもいいから)プロトタイプや製品の初期ヴァージョンを顧客にどんどん見せていかねばならない。
・・・早期に見せられる、触れる製品を出すことが重要。

技術やコンセプトを誇示しても説得力がない、ともいえる。




ポイント(5)信頼性ギャップを克服するための計画

・・・心配性の顧客は、ベンチャーの製品の数分の1の性能、機能で、数倍の価格であっても既存ベンダーに発注してしまう。ベンチャーは新規顧客獲得のためにも、先行事例となりえる有料顧客を確保しなければ頓挫する。
・・・先行顧客の獲得のためには、無償に近い価格まで値引きするのも当然。それで八方ふさがりが打開できる。
・・・サービス、サポートの継続性への信頼を得るため、しっかりした企業とのパートナーシップを追求すること。
・・・ベンチャーがしっかりした企業だと助言してくれる投資家、技術専門家のネットワークを積み上げることに集中すべし。
・・・少なくとも最初は、ニッチビジネスの分野で、それほど長期にはなりそうにないプロジェクトベースのカスタマイズ、またはサービスに集中すること。その試行の結果に基づいて、顧客リストを作り上げた上で、製品の販売またはサービス提供の拡大に乗り出すこと。

 最初から値引きしてどうする、という言い方をする人が多いですが、1対1の取引で、とくに事例集への「出演料」とバーターしている、ととらえれば、それは量販過程に入ったときの値引きではないので、いくらでも取り出せるものでしょう。これについては、上記に勇気づけられ、自分の信念を貫いてみようと思います。



ポイント(6)初期の成長と利益のためのビジネスモデル

・・・どのようにして比較的早期に売り上げと利益を生み出すつもりかを正確に表現する必要がある。特に経済環境が悪化しているときに、利益は、投資家だけでなく、顧客との信頼関係にとっても重要である。
・・・もちろん、新しい会社が実際にいつ稼げるのかを予想するのは難しい。顧客がどう行動し、競争相手がどう反応し、どんな新技術が現れるのか、だれも確実にはわからないからだ。
・・・(ニッチでの早期の売り上げを確立した後で)構造化し拡大するビジネスモデルを導入すべし。

まったくその通り。でも、技術者はときに、非常に普遍性のある技術やアイディアを思いついて、いきなりマス向けの市場に立ち向かえるでは、と錯覚することもあり得る。機能の完備した、完成型に近いプロトタイプを、特定タイプの顧客に提供する、という初期の道筋をはずすのは、やはり危険すぎるだろう。



ポイント(7)戦略と提供する商品の柔軟性。
 これは、excuse, 甘えの根拠に、誤って使われる危険が高いので割愛。



ポイント(8)大きなROIの可能性

・・・ビジネスプランは、・・・党利的な投資収益率(少なくとも25%)を見通せてなければならない。それも7年以内に。
・・・その時点での市場規模の見通しも大変重要。ビジネスモデルの可能性、つまり売り上げを拡大して仮想的な利益を想定するのでなく、実質的利益を生み出す可能性を計算できる方が良い。

 いわずもがな、の感じもしますが、市場予測とその根拠の積み上げの重要性を再確認した次第です。



 以上、2人のマイケル、すなわちポーターさんとクスマノさんは、いずれ負けず劣らず偉大だ(少なくともソフトウェアベンチャーにとっては)と改めて感じました。



以上、メタデータ株式会社3期目の終わりの日に書いてみました。

(後日、おもしろいマッシュアップの紹介などで、10/20-10/30の日付の日記を埋めてみると思います)