nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

R.Schumann 25 :「優れた大家の作品・・毎日のパン・・立派な・・に

音楽で心得ておくべきこと 25

優れた大家、中でもJ.S. Bachのフーガを熱心に弾くと良い。平均律クラヴィーアを毎日のパンとしてほしい。そうすれば間違いなく立派な音楽家になれるだろう。(R.シューマン)

 24で「総譜」、オリジナル作品と対話すべき、と説いたシューマンは、次の質問を予想して対話的に、「じゃぁ限られた時間の中で、どんな作品を選んだら良いだろう?」という質問を想定して、この25で素晴らしい回答を寄せてくれます。一般論として、優れた大家の作品を精選し、徹底してそれを繰り返し咀嚼すべき、と説いてくれたメッセージだけでも、現代の我々にとっても大いに参考になります。

 その上で、大バッハのフーガと、平均律クラヴィーア曲集とまで、具体的に作品を示してくれています。うーむ、、これに匹敵する、永遠の価値をもつ古典作品がIT、ソフトウェアの分野にあるのだろうか。300年生き残っている作品があるか、といえば断固No!ですね。しかし、今後、そうなり得る作品があるか、といわれると、「うーむ。。」であります。Aho, Hopfcroft & Ulmann の数々の基礎的アルゴリズムや、アセンブラの常套的なコーディング・パターンなど、多くのものがその上に積み重なっている、という意味では、何百年の寿命をもつ作品が落ち葉のように下層に存在し、最新のソフトウェアや我々の生活を支えている、といえるかもしれません。

 うん、ある部分、納得です。分割統治法、2分探索、B-tree、バランス木(AVL, 2-3)、A*探索、共役勾配法、2部グラフの重み付き最大マッチング、交代グラフの色分け。これらのアルゴリズムを読み、自分の好きな言語で実装してみることは、恐らく永久に有効であり続けることでありましょう。

 日本のIT業界、そして大学との接点で悲しい現実は、これらの基礎を習得してプロになっている人が極めて僅かしかいないこと。一流のコンサート・ピアニストでJ.S. Bachの平均律クラヴィーア曲集で身心の修練を積んだことのない人など考えられません。同様に、私なんかからみても、一流のプログラマ、計算機科学者で、上段の例にピンとこないまま、斬新な高機能や超高速、省資源等の長所を備えたアルゴリズムを発明できる「プロ」が生まれるような気はしないわけであります。

(野村直之@メタデータ