nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

R.Schumann 23: 「自分の楽器を愛しなさい。だが、自分の楽器が唯一

音楽で心得ておくべきこと 23

「自分の楽器を愛しなさい。だが、自分の楽器が唯一無比のものと考えるのは愚かなことだ。他にも同じように美しい楽器があることを忘れてはならない。また、合唱やオーケストラの中で、最高の音楽を表現する歌手があることを頭に入れておかねばならない。」(R.シューマン)

22の続き、言い換えととることもできます。

四半世紀以上前に、P.Drucker氏は、"Coming of the New Organization"という論文(Harvard Businessのシリーズ"Knowledge Management"の冒頭に収録されています)で、21世紀のプロフェッショナルな組織は、外科手術チームかオーケストラのような専門家集団になると主張しました。高度な連携、そう、コンマ何秒の単位で精密、正確無比な連携をしてリアルタイムでプロセスを進め、単一の目的を達成する集団です。

オーケストラのメタファーで非常に示唆的だったのが、
「第二ファゴット奏者の夢、目標は第一バイオリンのリーダ、コンサートマスターになることではない。同じオーケストラで第一ファゴット奏者になるか、あるいは、別の、さらに優秀なオーケストラの第二ファゴット以上に昇進することだ。」というもっともな主張がなされた点です。

これは、組織の中でいかに有機的に連携し、創造的に働くべきかの示唆を与えてくれていると共に、プロフェッショナルな人材のキャリア・パス、プランニングについて、真理を語ってくれていると思います。

まず、自分が好きな楽器(スキル)を選ぶこと。
互いにアンサンブルする、すなわち別の、それぞれに全体目的の達成に必須のスキルを有するプロフェッショナルのチームに適宜所属する。そこで効果的に働き、成果をあげる。

そのために、自分のスキルを磨く。楽器ならば技巧や、美しい、聴衆=サービスの受け手の心を揺さぶる音色=パフォーマンスを磨く。ここで辛さをのりこえ、修行の手応え、喜びを味わって並はずれたスキルを達成することで、自分の居場所を確保し、経済的な自由を得られる確率を高めていく。

違う楽器、ホルンやビオラの演奏者に嫉妬するということは通常有り得ない。
まずは一緒にアンサンブルする喜び(密に連携してプロフェッショナル・サービスを創造する喜び)を味わう同僚であり、ソウル・メイトである、とさえいえる。

自分の同僚、すなわち所属するオーケストラの別のプレイヤーの音色に感動し、惚れ惚れし、自分の楽器でもあのようなアーティキュレーションで演奏できないか、と触発され、スキルを向上させていく。往時の新交響楽団など、優れたオーケストラに所属していた時代を思い出すに、優れたチーム、組織に所属することの重要性はいくら強調してもし過ぎることはない、と痛感させられます。

下手なオーケストラの奏者達は、他の楽器に無関心です。
仲間達と設立した室内オーケストラでは、他の楽器に良い意味での羨望のまなざしを向け、惚れ惚れし、励まし、一緒に盛り上がろう、と常に(on timeもoff timeも)軽い興奮状態が続いていました。


歌手は別格。下手したら、オケという、オペラにおける"脇役"の長、指揮者より上の扱いを受けます。プロフェッショナル集団からみても、スター的な存在はいる、ということです。時には、ノーベル賞級の科学者をゲストに招いて金融工学の最先端製品を開発したりすれば良い。世界最高クラスのバイオリンやピアノのソリストを招いてコンチェルト(協奏曲)を演奏する、というメタファが通用するのならば。

(野村直之@メタデータ