nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

坂本桂一さん「新規事業がうまくいかない理由」

nomuran72008-09-05

「頭がいい人が儲からない理由」について拙日記に書いてから約11ヶ月、こんどは既存企業の新規事業立ち上げへの助言のエッセンスをまとめた「新規事業がうまくいかない理由」を献本いただき、一晩で一気に読みました。
 
少し意地悪く考えると、起業プロとして起業アドバイスするにも、ベンチャーでは、「それこそ最初の1商品、1店舗、1サービスが利益出すまで集中し、リソースをすべて注ぎ込め」と言っているにも関わらず、コンサル料を払わせるのは自己矛盾かもしれない、ということになります。フロイデさん自身のビジネスモデルとしては、大企業が効果的な投資を行うための知恵をまとめ、それをtailoring、customizeしてコンサルする、というのがまことに合理的。ですので、1年を経て、このエッセンスを出されたのは、ある意味、必然的だったといえます。

 
前半、個人が始めたベンチャー企業との対比で、既存企業が新規事業を始めるときの共通点、相違点が論じられます。これは「頭がいい人が儲からない理由」にあった内容をあらためて整理した印象もありましたが、

第2章 会社側が陥りがちな七つの罠
1 成功が前提となっている
2 撤退の際のルールが明確になっていない

というあたりから、特に企業内起業、子会社設立に際して重要視すべきポイントがわかりやすくまとめられています。

1 目的を決める
・何のための新規事業なのか
・新規事業の目的
・目的によってゴールは変わる

というあたりも、個人の起業とは異なる側面といえるでしょう。弊社の応援者も過去の事例とともによくコメントされますが、設立
時に綿密に考えた事業と同じ事業で成長したベンチャーはほとんどない、という経験則さえありますので。
 
 大企業の新規事業スタートの場合、いくら子会社として儲かり、発展しつつあるとしても、下記の目的に叶い、目的毎に異なるゴール、評価基準を満たしていなければ撤退、清算すべし、という痛烈なメッセージがあります:
(1)本業の重心移動 (例:ラジオ製造→テレビ製造)
(2)本業の周辺を強化(例:PC本体→利益率高い新手の周辺機器)
(3)未来を担うビジネスにシフト
(4)他社をキャッチアップ
(5)衰退しつつある本業を補う
(6)自社の付加価値を増す
(7)新しい事業の種を発見
(8)本体企業の事情 (話題作り、社内ムードの刷新、失敗を想定したリストラ)

 後半、楽観的、悲観的、というより、「厳しい目で」ビジネスプランを作る、に始まる言葉は、個人が始めたベンチャーにもそのまま当てはまります。論理を突き詰めた文章(箇条書きや図解も可)と、キャッシュベースの予想P/Lを、可能な限りリアリティを込めて彫塑していく、と。

 企業の新規事業向けには、ビジネスプランの評価について、評価者である本社役員さんを念頭に、しっかり釘を刺してくれています。
ビジネスの評価基準(チェックポイント):
(1)何のために自社が新規ビジネスに進出するか、その目的に合致している。
(2)自社に合ったビジネスか (本業に比して本末転倒になってないか、全員が狂気なほどのモチベーションあるなどの無理な前提はないか)
(3)そのビジネスを始めるためのリソースが自社内外で調達できるか(特に、そのビジネスに向いた人材)
(4)失敗しても本業の屋台骨までは傾かないか
(5)本業の手助けになるだけの成長スピードがあるか
(6)進出するマーケットは成長しているか (仮に競争で2番手以下になっても利益が十分出るくらい)
(7)参入障壁が低すぎないか  (独創技術なくとも誰でも簡単に始められるようなビジネスでないか)
(8)付加価値の高いビジネスか
(9)誇りを持ってできるビジネスか (ニーズはあっても社員の志気が上がらない仕事では発展望めない)
(10)全員が「炎の集団」でなくとも成功できるか (50人中5人が最高のモチベーションであればいけるようなビジネスモデルが望ましい)

 ちなみに、マッシュアップのためのメタデータ自動抽出エンジンの開発/販売を行うMextractr事業は、(1)、(2)、(3)、(6)、(7)、(8)、(9)はほぼ満点が付けられそうです。

 箇条書きで大変読みやすいのですが、大事なことは繰り返す、という熱心さ、親切さのあまり、いわゆるMECE原則、重複する要素、概念を排除した列挙でなくなっている部分は散見されます。しかし、伝統的なコンサル会社とは違い、起業プロとしては、これで良い、と思います。
 
本当に重要な経験則を、徹頭徹尾目の前の事例にあてはめて、仮説を毎日修正しながら走り続けるのがベンチャーだ、と骨身に沁みてわかっていますので。