nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

接尾辞の文法・意味属性設定の面白さ、難しさ

野村社員、インサイダー容疑・監視委調査

えー、私は何もわるいことはしていませんが、、上記のヘッドライン文には、思わず目を留めてしまいました。
 
新聞記事の見出し文の冒頭、読点「、」までの文節は、通常は主語(「が」格)と解釈されます。上例では、「野村社員」がいまいち意味があいまいながら、ヒト属性をもつことは確実と思われるので、さらに主語の可能性が高いと感じるはずです。
 
しかし、背景知識として「監視委」が主語らしいから主語じゃないのかな、解釈が変わり、どうやら、「を」ないしは「に対して」調査、と、意味的には目的格か対格であることがわかります。

さて本題です。名詞かつ、接尾辞的な性質を備えた2つの単語「社員」vs「社長」を比較してみると、
 
・「野村社員」→野村證券の社員 という解釈が(社内でない限り)妥当
・「野村社長」→野村という苗字の社長、という解釈が妥当(「野村の社長」なら野村證券の社長)
 
後者については、実は口語のイントネーションによってあいまい性が解消されることがあります。生成文法による複合語の語構造を研究している影山太郎先生の論文や、それを引用した小生の論文を参照していただくと、次の解釈の妥当性、その理由がある程度説明できると思います:
 
・イントネーションが「の[低]む[高]む[高]ら[高]しゃ[高]ちょう[低]」:苗字が野村
・イントネーションが「の[低]む[高]む[高]ら[高]しゃ[低]ちょう[高]」:野村證券の社長
 
上のイントネーションを「造語タイプ」、下のイントネーションを「統語タイプ」(文法構造が中に入っている)と、以下で呼びます。統語タイプには、文法上の役割(文節相当)が異なる要素の切れ目が入っています。これを「/」で表示します。
 
もう1つ接尾辞的な名詞「代表」や「代行」を付けると、
・「野村社員代表」→ 「野村/社員代表」vs「野村社員/代表」:前者は曖昧、後者は野村證券の社員の代表に確定か。
・「野村社長代行」→ 「野村/社長代行」vs「野村社長/代行」:前者は、どこかの会社の社長代行の名前が野村さんか、野村證券の社長代行さん。後者は、どこかの会社の野村社長の代理を務める人。
 
上記で一番最後の例が一番興味深いかと思います。3通りの解釈があり、イントネーションによってある程度絞られる。
 
かように、文の解釈、文脈の解釈だけでなく、複合語の意味解釈にも面白い問題があり、セマンティック・テクノロジは大変奥が深い、ということがわかります。15年前の科学研究の成果が、いよいよ実用、ビジネスでも差別化要因になりつつある、という感慨ももちました。