nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

R.Schumann 08:「いつも正しく調律された楽器を使うこと。」

音楽で心得ておくべきこと 08

「いつも正しく調律された楽器を使うこと。扱っている曲は、ただ指で弾けるということだけでなく、ピアノがなくても、口でハミングできるようでなければならない。創造力をうんと強くして、曲の旋律ばかりでなく、それについている和声も、しっかり覚えてしまうようにならなければならない。」(R.シューマン)

さすがに、これをITや他のprofessionにアレンジするのは難しそう、ともみえます。

しかし、「いつも正しく調整された道具/開発環境を使うこと。」とすれば、
たちどころにソフトウェア開発にもあてはまるようになりそうです。

例えば、最近、当方から尊敬の度を強めている小飼弾さんのプログラマーの三大美徳
から引用してみましょう:

#1 プログラマーの三大美徳その1「怠慢」
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20061005/250057/

怠慢
全体の労力を減らすために手間を惜しまない気質。この気質の持ち主は、役立つプログラムを書いてみんなの苦労を減らしたり、同じ質問に何度も答えなくてもいいように文書を書いたりする。よって、プログラマーの第一の美徳である。

はい。ソフトウェア開発の場合、その道具作り自体もソフトウェア開発であるので、上記のようなことがいえやすいし、ある意味、自己完結しているといえます。
裏返して言えば、「環境を提供してもらってないから」という言い訳や甘え、依存が通用しない、ということですね。そんなことは自分で全部できるはずだろっと若いうちから最初から突き放されている。

だから、優秀な人は、本当に若いうちから頭角を現しやすい、ともいえるでしょう。
ハードや不動産含めた "重量級"のリソースの動かし方を15年くらい学んでからリーダ、管理職、経営陣になれ、などと、長期間の修行をさせるのは必須ではないわけです。

ただし、抜群にカンの良い、強烈に責任を全うできる、且つ周囲に見返りを求めずサポートできるような "本物の愛" が内面からほとばしるような人物であれば、という条件が付くでしょう。


レッスン08を裏返して、じゃぁ「不備なる道具、環境では下手になるのか?」
と言われると、「べつにぃ。自分で補修、追加しながらやるだけじゃん?」という回答になりそうです。

これは、やはり、奏者と調律師との分業が進んだピアノという特殊な楽器を主なターゲットにしたせいかもしれません。

言い換えれば、、
練習時間と同じくらいの時間、奏者本人がリード作りをしているオーボエの勉強をシューマンがしていれば、違ったメッセージになったかもしれない、ですね。(微笑)

ソフト開発を、植物を精魂こめて育てることに喩えた方がおられましたが、楽器演奏ではオーボエが近いのかもしれません。他の楽器の音と「マッシュアップ」したり、伴奏にのっかったりする(ライブラリを利用する)、という意味でも、オケの演奏作りとの類似性を感じます。


>ピアノがなくても、口でハミングできるようでなければならない。

指揮者、オケマンは、こういうのを「口三味線」(くちじゃみせん)と呼びます。異様に上手いヒトがいるし、、ともあれ、すぐ身体でリズムとったり、旋律は口で歌うようなヒトの方が心から音楽を愛して楽しみつつ腕前も'急上昇'(のだめ13巻より)しやすいよなぁ、と常々思ってまいりました。


>創造力をうんと強くして、曲の旋律ばかりでなく、それについている和声も、しっかり覚えてしまうようにならなければならない。

これには、アレンジ、それも、パロディ作りみたいに和声を変える遊びなんかも役だったりしますですね。Eb7とか覚えるよりも、長調の主和音、下属和音、転調して、、という感覚で捉えておいた方が、瞬時に即興で和声を変えて遊ぶのに役立ちます。

のだめが、この方面で才能あることは、モーツァルトの2台のピアノのためのソナタで、千秋に怒られて短調で旋律を弾き始めたエピソードなんかにも現れていたと思います。

このような才能と譜面通りの正確さは、ちゃんと高度に両立します。

同様に、優れた相対音感は、絶対音感と両立します。
※この意味で「絶対音感有害論」は間違いです。間違った絶対音感教育が有害になり得る事実までは否定しませんが。

ピアノの響きに馴れ過ぎた人は、合唱をときどきやったり、さっきの口三味線で純正調にしたり、金管楽器の開放管を鳴らしてみて、ほぼ完全な整数比(例:ド:ソは2:3、ド:ミは3:4)の周波数の美しさを覚えておく必要があるでしょう。


ソフト開発と和声の関係はちょっと難しいかな。

でも、IDEで、左ペインのexplorerみたいな[+][-]のGUIを沢山開いてMVCモデルを意識しながら、ソースの構造を理解するのって、上から、木管金管打楽器、弦楽器、の3ブロックの総譜(オーケストラ・スコア)を分析して覚える作業と大変よく似ている気がするのですが如何でしょうか。>両方やったことある人

木管のある動機が、低弦のあるパッセージを引き継いだり、「ボケ」と「ツッコミ」やっているとか、ユニゾンなど、離れたコードが両者一体となって機能しているとか。

美しい作品の総譜は美しいし、美しいコードのソフトウェアはやはり保守性も高く美しい機能バランス(integrity)を実現していることが多いような気がいたします。

(野村直之@メタデータ