R.Schumann 07:「やさしい曲を立派に美しく弾くように努力すること。
音楽で心得ておくべきこと 07
「やさしい曲を立派に美しく弾くように努力すること。これは、難しいものを平凡に演奏することよりもずっとい良いことだ。」(R.シューマン)
またも素晴らしい言葉です。
あらゆる芸事に通じると言っても良いでしょう。
今年第75回の日本音楽コンクールのピアノの本選出場4名のうち、芸大在籍の男性が、モーツァルトの20番ニ短調の協奏曲を本選で演奏しました。2楽章のピアノ独奏の主題が、映画
「アマデウス」のエンディングで使われたり、多くの人が耳にしたことのある素晴らしい傑作です。
音楽家にとっては、この曲を「やさしい曲」と言うには非常に抵抗があることでしょう。1音たりともないがしろにできず、全てを露わにさらけ出される恐ろしい曲だらけなのがモーツァルト。
さらに、譜面にない、カデンツァでオリジナルなものを即興で作曲せよ、という本来の分担をするとなったら、奏者は途方にくれてしまいます。1楽章のカデンツァは、ベートーベン作曲のものがあまりに素晴らしく、天才同士の「マッシュアップ」に突き入る隙はない、と打ちのめされつつ、猛烈に感動してしまうからです。
奏者としてはどこか醒めてなければいけないのに。。
さて、冒頭のシューマンの言葉に戻ります:
難しい曲:ショパンのエチュードやリストの超絶技巧練習曲
易しい曲:バッハの2声のインベンションの第一曲(私でも弾ける!)
のだめが「マラドーナ」コンクールで、「投げやりな」演奏をしたショパンのエチュードと比べて、活き活き、溌剌として、聴く人の魂を元気付ける上記バッハの演奏は十分にありえます。
シューマンさんが言いたかったことを補佐する事例としてはこちらの対比の方が適切と思われます。
音楽から他のアートに転じてみると、、身近なところでは写真があります。覚える基本はさほど多くありません。
シャッター速度、絞り、被写界深度、ボケ、ラチチュード、階調、色空間、構図、広角レンズによる遠近の強調、望遠レンズによる遠近の圧縮、、あと何かありましたっけ?
というくらい簡単です。小学5年生の私はこれらを駆使してモノクロ写真を撮影し、自分で焼付けとかもやってました。
でも、プロになるには複雑な知識が大量に必要では?
いや、それは多分間違っています。
薀蓄屋の「ハイ・アマチュア」さんとかよりも、プロの方が単純な【基本に忠実】ということをよく聴きます。
複雑・高度な応用知識は知らなかったり、必要ならその場で、その知識を【自分で創り出して】すぐ使えば良い。
そして、1つ1つの作業でどんなに苦労しても、苦痛を苦痛と感じず、全体としては楽しくて仕方ない。これが実はプロの要件なのではないでしょうか。
優れたソフトウェア技術者にも似たような資質、側面がありそうです。多くの写真家と違うのは、創り出した知識(ライブラリの形で動いたりもしますね)を、すぐに他人と分かち合いたくなり、説明などの助力も惜しまない、といったところでしょうか。あ、そのような写真家も、私が個人的に知らないだけで、きっとどこかにいらっしゃることでありましょう。
冒頭の言葉をソフトウェア開発にあてはめるとどうなるでしょうか。
・シンプルな機能を美しく創り上げる(設計する)経験を積むことは、複雑な機能をただ単に作っただけみたいに平凡に仕上げるよりも、技術者としての成長に寄与するところが大である。
うん、正しそうです。(微笑)
他にもいろいろアレンジできそうです。
(野村直之@メタデータ)