nomuran's diary

野村直之のはてな日記(後継ブログ)です

日本音楽コンクールのホルン吹きの若者に乾杯

 NHKのクラシック倶楽部の放送をHDDに自動録画していますが、半分くらい開けてみれば良い方で、普段は観ないで消しています。それが、何かの胸騒ぎで、一昨日13日のBS102の録画を再生したところ、第77回に本音楽コンクール本選会・ホルン部門の入賞者6人の演奏をやっていました。
 
 曲は、ロシア・ロマン派の作曲家グリエールのホルン協奏曲 変ロ長調作品91。
あのチャイコフスキーのバイオリン協奏曲を意識して、
「バイオリンに勝るとも劣らない偉大な*独奏楽器*のホルンにこのようなコンチェルトが無いのは許せない。私が作ろう。」と思って書かれた偉大な作品です。3楽章など、リズムもチャイコフスキーのバイオリン協奏曲そっくり。最初にヘルマン・バウマンの演奏で聴いたときは、「パロディか?」と思わず吹き出してしまいかけたくらい、雰囲気が似ています。
 
 ということは、、異常なほど難しい曲になっています。3オクターブ以上の音域を自在に操り、しかし、ホルンでちゃんと吹けるようになっていて、しかも、チャイコフスキーに準じて美しいメロディを凝縮できたグリエールらしい、大変魅力的な曲となっています。
 
 6人の入選者は21歳から30歳の若者です。半数が、日本のプロオケの現役プレイヤー。名フィル1名、日フィル2名(うち1名は優勝した福川さん29歳で日フィルの首席奏者です)、というところが、日本の金管奏者が、逃げず恐れず、正々堂々と、攻めの姿勢でソロに取り組むようになった現状を物語ります。

 他の3名は、最年少入賞(3位)で芸大3年生と、29歳の巨漢でチューリッヒ音大大学院在籍氏、そして東京音大卒業生です。
 
 大変な難曲であり、ホルンらしく音をはずした回数は、1位の人以下全員2桁。その意味では、かつてチェコのラデク・バボラック(現ベルリンフィル首席)が18歳で優勝したミュンヘンコンクールのレベルには達していません。しかし、3年前、6年前とくらべて格段の進歩です。全員、深い音楽を表現しています。ゆったりした2楽章が得意な人、じっくり歌い上げる1楽章が得意な人、アップテンポでお祭りのようにテクニックを披露できる3楽章が得意な人。それぞれ個性的です。
 1つ気になったのは、楽器メーカーの音色があまりに素直に出ていた点。パックスマンは、それらしい、ブリリアントな通る音色そのもので、アレキの103は103らしい音、ガイヤーモデルは渋めの音、E.シュミットも映像を観なくてもわかりました。先のチャイコフスキーコンクールで優勝した神尾さんの台詞「ストラッドでもなんでも、どんな楽器弾いたって、その人の音色しか出ないんですよ」という域にはまだ達していないのかもしれません。でも、裏返せば、楽器の性能、可能性は、全員が十分引き出していた、ともいえるでしょう。(ちなみに私はパックスマン25A(dual bore)とアレキの1103、メーニッヒのペーターダムモデルを使い分けているので楽器ごとの音色や特性の違いには結構敏感です)
 
 ともあれ、彼ら、彼女ら(女性入賞者が2名)は、私の世代のプロ奏者より数段ハイレベルになっている、と実感しました(東大オケや新響が絶好調でマーラー演奏をしていた時代はアマチュアのトップクラスは芸大や東京音大の奏者を凌駕していると芸大作曲科出身者に言われたことがあります)。この勢いなら、あと20年くらいしたら、日本の金管も世界トップに肉薄するかもしれない。ピアノ、弦、木管が世界最高クラスの人材を輩出しているのに対して、金管は、体格の違いのせいか残念だ、などと言われていたのが過去のものとなる時代の到来を予感し、入賞者全員をたたえて乾杯しました。